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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(行ツ)99号 判決

上告人 福島明 ほか八名

被上告人 建設大臣 ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人菅谷哲治、同山本剛嗣の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人建設大臣が昭和五〇年三月一九日にした東京都市計画道路事業補助線街路第二六号線及び補助線街路第七四号線の施行期間を同三六年七月七日から同五四年三月三一日までと変更する事業計画変更を認可する処分の取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法一四条三項に定める出訴期間を徒過して提起されたものであり、また、被上告人東京都知事が同五三年八月一五日にした本件事業地の収用の手続が開始される旨の告示の取消しを求める訴えは、右手続開始の告示は抗告訴訟の対象となる処分にはあたらないから、いずれも不適法として却下すべきものであるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない(なお、所論違憲の主張は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決の法令の解釈適用の不当をいうものにすぎない。)。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 和田誠一 藤崎萬里 中村治朗 谷口正孝 角田彊次郎)

上告理由

一 被上告人らに対する本件各訴え興いずれも不適法であるとの第一、二審の判断について

1 第一、二審は本件認可が昭和五〇年三月一九日に告示されており、昭和五三年九月一四日本訴が提起されているのであるから、行政事件訴訟法第一四条第三項に規定する出訴期問を徒過した後に提起された本訴は不適法であるというにある。

2 なる程、行政事件訴訟法第一四条第三項は「取消訴訟は処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。」と定める。しかしながら、土地収用法に基づく手続開始の告示は昭和五三年八月一五日になされたことは、原告らと被告ら間に争いはないのであるから、本件告示の取消しを求めることは右経過期間経過後であるということにはならない。のみならず、右告示の取消しを求めることは本件告示によつて、本件認可の効果の発生が可能になつた。

すなわち、本件認可と本件告示は密接不可分の関係にあつて一連の行為なのであるから、本件告示の取消しと合わせて本件認可の取消しの訴えを提起することは背理ではなく、行政事件訴訟法第一四条第三項に反しないというべきである。

3 よつて、第一、二審は、法律の解釈を誤つたものといわざるを得ないものである。

二 告示は、起業者の所有者等に対し、事業の認定と独立して法的効果を有しないとの判断について

1 第一審は、告示をもつて抗告訴訟の対象となる行政庁の処分と解することはできないと判示する。

2 しかしながら、手続開始の告示によつて土地収用法上の諸効果が発生するものであるから、本件告示が直接具体的な国民の法律上の利益に関係がないとはいえない。従つて、現実の作用としては告示は単に土地収用法が告示に特に付与した効果であつて、抗告訴訟の対象とすることはできないというべきではない。

3 何故ならば、本件のように一連の手続を経た行政作用において、各段階ごとの行為(本件告示もそうである。)が、国民の権利、利益の侵害の可能性をもつ場合には、そのいかなる段階でも訴えの提起をすることができなくてはならず、これに制約を加えることは憲法第三二条の精神に違反することとなるものと信じるからである。

実際問題としても、右告示の取消しを求め得ることが爾後の混乱をさけうることとなるのである。

4 よつて、第一審の判決には憲法の違反がある。

以上

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